大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和40年(ワ)602号 判決 1969年1月16日

原告

小林泰造

代理人

西村重次郎

被告

株式会社二条丸八

代理人

橋本清一郎

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し金二〇〇万円およびこれに対する昭和四〇年七月一六日より支払済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟質用は被告の負担とする。」との判決と仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

「一、原告は、昭和三五年一一月二八日被告会社(昭和三六年一月一二日、株式会社丸八商店を現商号に変更)設立と同時に、被告会社取締役に就任し、昭和三八年六月二四日、被告会社取締役を辞任した。

二、被告会社代表取締役田中嘉一郎は、原告の被告会社取締役辞任の際、原告に対し、退職慰労金として金三〇〇万円を支払うことを承諾した。

三、被告は、昭和三八年七月一一日、原告に対し、右退職慰労金内金一〇〇万円を支払つたのみで、残金二〇〇万円の支払をしない。

四、よつて、原告は、被告に対し、右退職慰労金残金二〇〇万円およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四〇年七月一六日より支払済まで年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。」

と述べた。

被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、

「一、原告主張一の事実は認めるが、二の事実は争う。

二、原告主張の退職慰労金支給について、被告会社において、定款の定めもなく、株主総会の決議もない。」

と述べた。

証拠<略>

理由

原告が、昭和三五年一一月二八日被告会社設立と同時に、被告会社取締役に就任し、昭和三八年六月二四日、被告会社取締役を辞任した事実は、被告の認めるところである。

株式会社の取締役の退職慰労金は、取締役在職中の職務執行の対価としての性質のみを有する場合であると、取締役在職中の特別功労に対する支給としての性質をも含んでいる場合であるとを問わず、商法第二六九条の立法趣旨から考えて、同条にいう報酬に該当する、と解すべきであり、退職慰労金を支給するか否か、支給する場合のその額は、定款又は株式総会の決議を以て、これを定めなければならない。

使用人を兼ねていた取締役に退職慰労金を支給する場合、使用人としての退職金の部分が退職金規程等に基き明確に区別できるときを除き、商法第二六九条の立法趣旨から考えて、退職慰労金全額について、同条の適用がある、と解するのが相当である。

本件についてこれをみるに、仮に、被告会社代表取締役田中嘉一郎が、原告の被告会社取締役辞任の際、原告に対し、退職慰労金として金三〇〇万円を支給することを承諾したとしても、右退職慰労金支給について、被告会社において、定款又は株主総会の決議を以てこれを定めたことは、原告の主張立証しないところである。

原告本人の供述によれば、原告が被告会社の使用人を兼ねていた取締役であつた事実を認めうるが、原告主張の退職慰労金支給について、使用人としての退職金の部分が退職金規程等に基き明確に区別できる事実を認めうる証拠はない。

よつて、原告の本訴請求は、失当として、これを棄却し、民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり判決する。(小西勝)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例